科目名 | : | 薬物速度論 |
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英文名 | : | Pharmacokinetics |
科目概要 | : | 薬・創薬, 4年, 前期, 必修・選択, 1単位 A, B, C, D, S, 月曜日2時限, 2301大講義室 |
科目責任者 | : | 前田 和哉 (薬剤学・教授) |
担当者 | : | 前田 和哉(薬剤学・教授) |
備考 | : | 〔科目ナンバリング:PP301-PK04, PL301-PK04〕 |
薬物の体内動態の把握は、薬物の薬効を最大化、副作用を最小化するにあたって留意すべき必須事項の一つである。従って、本科目の内容は、臨床医療における患者個々の状況に応じた投与計画の立案においても、創薬段階で体内動態特性を考慮した最適な医薬品候補化合物の評価を実施する際にも重要な考え方の根幹をなすものと考えられる。
本講義では、薬物の体内動態を定量的に把握するための方法論を理解し、薬物の体内動態特性の情報を活用して最適な投与設計ができるようになることを目的とする。そのために、薬物の吸収、分布、消失(代謝・排泄)の諸過程を数学的に解析して体内動態を記述する各種パラメータを算出できるようになると共に、得られたパラメータを活用して、適切な薬物療法を実施可能な投与計画を立案する手法を身に付ける。また、薬物動態学/薬力学解析(PK/PD解析)や母集団薬物速度論の概念と臨床での適用事例について基本的な部分を修得し、患者個人にあった投与計画を提案するための手法についてその基礎原理を理解することを目的とする。
科目の位置づけ:薬剤系専門科目
この科目は学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)の薬学科④、生命創薬科学科①に関連する。
生物薬剤学の講義で学んだ薬物動態を支配する要因(吸収、分布、消失)に対する知識を前提として、薬物の体内動態をより定量的に記述するために必要とされる各種パラメータの定義およびその算出方法を修得すると共に、臨床での薬物動態データの定量的な解析と患者個人の状況にあった最適な投与設計を行うための基礎知識と考え方を、臨床事例のケーススタディーも交えながら修得する。
A:様々な投与方法に対応する薬物速度論的な解析法の原理を理解して、投与計画の情報に基づき体内の薬物濃度の時間推移を導くことができる。
B:患者の生理状態を薬物動態パラメータに反映させ、患者個人の薬物動態特性を把握する方法を理解し、薬物動態面から投与計画において注意すべき点を定量的に列挙し、適切な投与計画を提案できる。
C:母集団薬物速度論の考え方に基づき、患者で観察された血中濃度データから個々の患者に最適な投与設計を提案する方法の基礎原理が理解できる。
D:薬物動態学/薬力学解析(PK/PD解析)の概念と解析法の臨床での実例を習得し、薬物動態と薬効/副作用との関係性を定量的に連結して考えることができる。
E:薬物速度論の考え方を統合的に活用して、臨床で見られる薬物動態データを合理的に説明し、課題解決の方策を提案できる。
教科書と配付資料をもとに、パワーポイントを用いて講義を行う。各講義の最後には、その日の講義内容から解決可能な実践的な問題を提示して、その解答指針を考えるなど問題解決型学習も実施する。また、配付資料には、講義中の問題演習で取り扱った類題が複数ついており、復習してもらうことで更なる知識の定着を促す。課題を課した場合には、提出後、全員のレポートに対してコメントを付してフィードバックを返すとともに、次回講義にて、課題の出題意図および模範解答に関する解説を行う。また、提出されたレポートに関して特に間違いが多かった場所について注意喚起・コメントをする。対面授業にて実施する。
No. | 講義項目 | 担当者 | 開講日 | 授業内容・方法 |
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1 | イントロダクション、1-コンパートメントモデル(1):急速静注 | 前田 和哉 | 4月7日② | 臨床における薬物の投与設計や医薬品開発における薬物速度論解析の意義や実例について学ぶ。 薬物動態を記述するパラメータとして、消失半減期、分布容積、クリアランスの定義を学ぶ。 1-コンパートメントモデルの意味を理解するとともに、それに従う薬物の急速静注後の血中濃度推移のグラフから、各種薬物動態パラメータの算出法について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第1章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】Aに関連する。 |
2 | 1-コンパートメントモデル(2):定速静注 | 前田 和哉 | 4月14日② | 1-コンパートメントモデルに従う薬物について、定速静注(点滴)された薬物の血中濃度推移がどのように記述されるかについて学ぶ。 薬物動態パラメータの情報に基づき、目標とする血中濃度を得るための投与速度や負荷投与量の算出法について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第2章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】Aに関連する。 |
3 | 休講 | 4月21日② | ||
4 | 1-コンパートメントモデル(3):経口投与 | 前田 和哉 | 5月12日② | 1-コンパートメントモデルに従う薬物について、経口投与された薬物の血中濃度推移がどのように記述されるかについて学ぶと共に、血中濃度推移のグラフからの薬物動態パラメータの算出法、 バイオアベイラビリティの定義について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第3章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】Aに関連する。 |
5 | 1-コンパートメントモデル(4):反復投与 | 前田 和哉 | 5月19日② | 1-コンパートメントモデルに従う薬物について、反復静注および反復経口投与された薬物の血中濃度推移がどのように記述されるかについて学ぶ。 薬物動態パラメータの情報に基づき、目標とする血中濃度を得るための維持投与量、投与間隔、負荷投与量の算出法について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第4章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】Aに関連する。 |
6 | モーメント解析、生理学的薬物速度論(1):全身・臓器クリアランス | 前田 和哉 | 5月26日② | モデル非依存的な解析法であるモーメント解析法の特徴を理解すると共に、平均滞留時間・平均吸収時間等の算出法について学ぶ。また、1-コンパートメントモデルを記述するパラメータとモーメントパラメータとの関係について学ぶ。 生理学的薬物速度論の考え方を理解し、コンパートメントモデルとの相違点について学ぶ。 全身クリアランス、組織クリアランス、肝抽出率、肝アベイラビリティの定義について学ぶとともに、パラメータ相互の関係やそれらの決定要因について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第5章、第10章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】A、Bに関連する。 |
7 | 生理学的薬物速度論(2):固有クリアランスと臓器クリアランスの関係 | 前田 和哉 | 6月2日② | 固有クリアランスの定義、臓器クリアランスとの関係を記述するためのwell-stirred modelの考え方を学ぶ。クリアランスの大きい時・小さい時それぞれのクリアランスの支配要因について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第6章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】A、Bに関連する。 |
8 | 生物学的利用能、各種パラメータの変化が血中濃度に与える影響 | 前田 和哉 | 6月9日② | 肝初回通過効果、生物学的同等性、および量的及び速度的バイオアベイラビリティについて学ぶ。 分布容積とタンパク結合率との定量的な関連性について学ぶ。 クリアランスの律速段階および分布容積の大小で薬物を分類した時、各種薬物動態パラメータの変動が起こった時の血中濃度推移の変動を定量的に描図するための考え方と方法論について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第7章、第8章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】A、B、Eに関連する。 |
9 | 2-コンパートメントモデル | 前田 和哉 | 6月16日② | 2-コンパートメントモデルが当てはまる薬物の条件について学ぶと共に、2-コンパートメントモデルにおける血中濃度推移の形と式、薬物動態パラメータとの対応関係について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第9章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】Aに関連する。 |
10 | 非線形薬物速度論 | 前田 和哉 | 6月23日② | 薬物動態の線形性・非線形性の考え方および薬物動態が非線形性を示す主な機序、および非線形性の定量的な理解のために必要な数式について学ぶ。 代謝過程が非線形性を示す薬物について、臨床での適切な投与設計をするための方法論を学ぶ。 【予習】事前に教科書の第11章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】A、B、Eに関連する。 |
11 | PK/PD 解析と母集団薬物速度論 | 前田 和哉 | 6月30日② | PK/PD 解析の概念、薬物動態と薬効の時間差が生じる要因および薬物動態と薬効を定量的に結びつける方法論について学ぶ。 母集団薬物速度論解析の考え方と利点について学ぶと共に、薬物動態パラメータの算出法、及び母集団パラメータに基づいた個々の患者の体内動態パラメータの算出法の概要について学ぶ。 【予習】事前に教科書の第12章を一読する。 【復習】配布資料と教科書を用いた復習および配布資料に掲載の問題を自力で解答してみる。 【到達目標】C、D、Eに関連する。 |
定期試験 | 講義範囲全体から出題する。記述式。持ち込み不可。 |
授業 | 授業回数10回+定期試験 毎回の授業終了後に、campus手帳を用いた簡単な確認テストを実施し、当日の授業内容の理解度チェックを行う(この確認テストの成績は評価には反映しない、次の授業時に簡単な解説を実施する)。 授業の進捗に伴い、それまでの学習事項の復習と共に、実際の臨床事例について論理的に説明するような知識の活用を目的とした複数回のレポートを課す。 |
その他 | レポート(15%)+定期試験(85%)に基づいて評価する。レポートの未提出や期限外提出は減点する。 |
本科目は、薬剤師が患者個人に応じた最適な投与設計を提案するためにも、創薬研究者がヒト体内動態試験で得られた結果を定量的に理解するためにも必須の内容を含んでいます。
本分野特有のテクニカルタームやパラメータ、数式が多数出てきますが、これらをやみくもに覚えるのではなく、根底に流れる考え方を把握することが、本分野の理解には必須となります。
そのため本講義では、数式的な理解と感覚的な理解の両方を促せるような解説を心がけたいと思っています。また、課題や配布資料には、実践的な問題をできるだけ多く取り上げるようにしており、そのうちの一部は講義の中で皆さんと一緒に解答方針を考える機会をとりたいと思っています。数式は自身の手で使ってみて、初めて感覚がつかめるようになることから、皆さんも毛嫌いするのではなく、まずは手を動かしてみることを強く勧めます。
本講義は連続性があるので、途中で分からなくなると後の授業についていくことが困難になりますので、分からないことがあれば質問に来るなどしてすぐに解決しておくことをお勧めします。
なお、本講義は、続く「臨床薬物動態学」の講義の理解にも連動してきますので、ここでしっかりと理解していただけることを期待しています。
1 | 【授業時間外に必要な学習の時間:30時間】 |
2 | 1回目の講義で各回の講義で取り上げる教科書の範囲を提示し、2回目以降の講義では、次回の講義で用いる配布資料を当該講義の1週間前にはgoogle classroomに提示するようにするので、教科書や配布資料を事前に読んだ上で講義に出席すること。 また、本講義の理解には、3年次後期の「生物薬剤学」の内容の理解が必須となるため、予め復習をしておくことが望まれる。 項目ごとに復習に活用可能な演習問題を配付し、一部の問題については講義中に解説する。残りの問題は自分で解答し、配付される解答・解説を活用して、理解度を把握すること。 分からないことがあれば、オフィスアワー等を活用し、積極的に質問に来る等してその都度解決し、不明点の積み残しをしないように努めること。 |
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | 文系出身の編集者でも理解できてしまった薬物速度論 | 前田和哉 編著 | 京都廣川書店 |
教科書 | 配布資料(オリジナル) | ||
参考書 | 臨床薬物動態学 改訂第5版 | 加藤隆一 監修、家入一郎・楠原洋之 編 | 南江堂 |
参考書 | パートナー薬剤学 改訂第4版 | 原島秀吉・伊藤智夫・寺田勝英・伊藤清美 編 | 南江堂 |